昭和の香りをまとう食堂
台北駅チカにオフィスを移して1年半、会社近辺のグルメも食べ尽くしてしまった。もう食べたいものも思いつかない、ただ胃袋が反応するのを待って周辺を歩き回るしかない、と散歩兼昼食に出かけたある日、細い小路に提灯がぶら下がる「武蔵食堂」を発見。昭和の香りを漂わせた、隠れ家的和食店だ。
初めは「え、こんなところに日本料理? どうせ〝なんちゃって〟でしょ~」と通り過ぎ、結局近場の自助餐で食事を済ませてオフィスに戻ったのだった。しかし後にマップにアップされた写真など眺めていると、メニューに「刺身定食200元」の文字が踊っている。安い。これなら魚を切っただけだし、外す可能性は低い。「どう、この店行ってみない?」バイトのSちゃんに声をかけてみると「いいですよ、オゴリですね」…しっかり者だ、信頼できる。
▲シンプルで素朴な味の定食。おかずだけ台湾風味
気取らない、懐かしい味
店は開封街から南に入る小路の中だ。まるでアマゾンの奥地に入っていくかのような足取りで進むバイトS。「これって『摸乳巷』みたいですね」いやさすがにそこまで狭くはないでしょ。
左手に目標の食堂が見えてきた。今回は穴場な店を選んだな、と思いながら近づくとショーケースに並ぶメニューの見本は、ちゃんとその日に作ったものにラップをかけて置いてある。入ると、老闆娘と思しき女性が好きな席にどうぞ、と声をかけてくれた。窓際奥の席に陣取りメニューを見ると、定食は幕の内に寿司250元、刺身と天ぷらが200元、トンカツが180元など。そのほか寿司に丼物、鍋、炒飯もある。
「私はオムライスにします」とバイトS。うーん、たしかにそれも気になる。それぞれオーダーし待つこと10分ほど、刺身を乗せた皿とごはん、味噌汁、おかずが運ばれてきた。「茶碗蒸しは今蒸してるからちょっと待ってね」まもなくアツアツの茶碗蒸しも登場。
刺身はサーモンとマグロ、サーモンは脂がのっていて弾力もあり、鮮度がよい。マグロは解凍しきっておらず、少々シャリシャリした食感。味噌汁は魚のアラの出汁が効いてうまい。オムライスをひと口もらうと、チキンライスもケチャップたっぷりで懐かしい昭和のテイスト。たまにはこういう気取らない、素朴な食堂が落ち着ける。この店が1947年創業、今でも静かに営業を続けていることをうれしく思った。
info
住所 中正区開封街一段14巷3號
TEL 02-2311-9527
営業時間 11時半~14時半、17時~21時
席数 約40席
予算 150元~/人